知り合って一ヶ月ほど経った頃。
僕は学校からの帰路で自転車を漕いでいた。僕は自転車を持っていない。その日はもう一度学校に戻る予定があったので、大学の友人から自転車を借りていた。

学校から街場まで自転車で二十分。日差しが強く、国道の側道を走ると田んぼからカエルの鳴き声が絶え間なく聞こえてきた。この街は都会だけれど、少し離れると田畑が広がり、手賀沼が見える。

道程の半ばで目の前を走っている見知った男を発見した。
渡だ。歩道を必死に走っている。僕はそっと後ろから近づいた。

通りすぎ様にちりりんとベルを鳴らす。渡が焦った顔でこちらを見て、あ、と表情を変えた。

「どちらへ~?」

僕は並走しながら問うと、渡は顔をしかめながら答えた。走っているからではない。大方、僕の態度をうざったく思ったのだろう。

「バイト」

「間に合うの?」

渡は黙って走る。まあ、間に合うなら走っていないだろうな、と思った。意地悪するのに飽きて提案してみる。

「乗ってく?駅前まで行くんだけど」

渡は嫌そうな顔をした。仮にも親切で言ってる友人にその態度かよ。僕は唇をとがらせ、すぐに否定する。

「嫌なら行くよ」

「わかった、頼む」