僕はむかっ腹を立てながら、それでも友好的に言う。こいつは、友達。僕はそうなりたくて話しかけたんだ。

「本の話とかさ、せっかくだからメシ食いながらしようよ」

すると渡が口の端をきゅっと持ち上げた。皮肉げに微笑んでいる。

「もしかしてさ、あんたって俺と文学青年ごっこがしたいの?」

どきんと僕の心臓が鳴り響いた。
何しろ、図星だったからね。僕は大学には存在し得ない文学を語り合える友人が欲しかった。年が近くて価値観が似ているといい。そんな下心で渡に近づいていたわけだ。

答えない僕を見下ろして、渡が嘲笑めいた笑みを見せる。

「そんなことだろうと思ったよ。どうせ、周りのオトモダチに純文学読むヤツがいないんだろ?で、図書館のヤツならちょうどいいだろってか?」

「そういうつもりで友達になろうとなんて思ってない」

「どうかな?友達になるって、お互いメリットがあるかないか、絶対考えるだろ?」

そうかもしれない。子どもの頃ならいざ知らず、大学で出会った友人たちの区分は『ゼミが同じ』とか『サークルが同じ』。『仲良くなっておけば、代返してくれそう』なんて理由のヤツもいる。
そして、渡に抱いていた気持ちも、確かに『メリット』だった。

「白井恒、俺はあんたのお目がねには叶わないよ。俺は頭が悪いから本読んでるんだ。それっぽい文学を読んで物を知った気になってるだけなんだよ」

渡が吐き捨てるように言う。周囲のテーブルは空だったけれど、人が見たら明らかに喧嘩の構図だ。