もういいや、媚びてまで仲良くなるヤツじゃないさ。僕には大学に友達がたくさんいる。いい感じに発展しそうな女の子も、少しいる。謎の図書館仲間・遠坂渡に固執する理由はひとつもない。


しかし、数日後同じコンビニで客と店員として僕らは出会ってしまうわけだ。仕方ないだろう。僕の部屋から一番近いコンビニだったんだ。そして僕は懲りずに渡に話しかけるのだった。

「バイト何時まで?」

「あと、2時間」

「終わったらメシ食いにいこうよ」

「やだよ」

渡は変わらず僕を疎ましがる。僕は負けじと食い下がる。


そんなやりとりを1週間ほど続け、いい加減なびけよと僕が提示したのは例の本を貸す約束。
結局渡は、谷崎潤一郎でようやく釣れたのだった。


その日の21時過ぎ、近所のファミレスで待ち合わせると、制服からTシャツとジーンズに着替えた渡が現れた。
約束の本を出すと、受け取った渡は何も頼まず、一言も口を聞かず席を立とうとするではないか。

「ちょっと、待った!一緒にメシ食うんじゃなかったの?」

渡はテーブルの脇に突っ立って、不機嫌な顔で舌打ちをする。
なんて、わかりやすいやつだろう。本を借りたら用済みってか?