僕の話はこれで終わり。

僕と渡は二〇〇一年の夏に出会い、仲良くなり、別れた。本当にただそれだけの記録。

ねえ、僕の奥さん。
きみはこの記録をどう思うだろう。きみに伝えたいことは余すところなく書いたつもりだ。嫌な気持ちになったかい?何も言わなかった僕とお義母さんを責めたいかな。
でも、きみには兄と弟がいたんだ。ふたりとも死んでしまった。その弟は僕の親友だったんだ。

僕らはあと何年生きるだろう。十年、二十年?もっとかもしれない。その間に何を見るだろう。子どもたちの独立と結婚、孫を抱くこともあるだろう。愛する人たちを見送るかもしれないね。

それでも、僕ときみは生きていく。
渡の分まで、なんて偉そうなことは言わない。ただ、毎日をきみと並んでひたすらに生きる。こうして渡のいない世界を生き続けることが、もしかすると彼への一番の手向けになるような気がしているよ。


いつか渡と会えたら、話したいことがたくさんあるんだ。
彼のいなかった二十五年間分の思い出と、この先のこと。

まだかかりそうだから、渡には待っていてもらおうと思う。
そして、どうかその時は、深空。
横で僕らの昔話を聞いていて。


僕は思いだす。
二〇〇一年の夏、僕たちの一生分の夏。

十九歳の僕たちは今でもあの場所にいる。

あてのない空の心地良さを、馬鹿馬鹿しく二人笑いながら、きっと自転車を漕いでいる。
海へ向かって。



<了>