渡、ごめん。

おまえとの楽しかった一瞬に囚われ、あの夏で足を止めていたのは僕だ。
おまえをそこに縛りつけているのは僕の妄執だ。

もう解放してやるよ。おまえはもっと遠くに行ける。
自由にどこへでも行けるんだ。ひとりで旅に出ていいんだ。

そしてようやく気付けた。
僕の守りたい人はこの世界にただひとり、深空だけだ。

一緒に歩いていきたいのは生きている深空だ。
渡の影を追いかけすぎて、全然見えなくなっていたものが見えた。
5年かけて、僕は誰のために生きるべきかをやっと見つけることができた。

僕は深空に歩み寄り、その肩に触れる。
それから、彼女を力いっぱい抱きしめた。

「やめて、離して!」

暴れる深空を強引に腕の中に閉じ込め、それから唇を合わせた。
深空の唇は涙でしょっぱかった。

「悲しい想いをさせてごめん」

唇を離して、僕は言った。

「きっと僕は、深空のことをお姫様みたいに大事に想いすぎていたんだ。深空は夢の国の住人じゃないのにね。生きてここにいるのにね。僕の大事な人なのに……」

僕の頬にも涙がつたっていた。
深空への悔恨と、渡への惜別の涙はいつまでも止まらない。