僕は奇跡なんか信じない。渡がその命と引き換えに深空を蘇らせたなんて、絶対に思わない。
深空は強い女性だ。
渡の死に関係なく、必ずいつか目覚めたのだ。
渡が死ぬ必要なんか、これっぽっちもなかった。

膝を抱えた。
潮風がびゅうと吹き付け、僕は目を眇める。
使う機会のない水着も、食べる気のないおにぎりもバックパックの中だ。

渡はいない。
一緒に来るはずだった海を訪れ、五年かけて彼の死を再確認する自分が滑稽でならない。

時間は経っているのに、涙は変わらず出てくる。
僕はまだ、渡を失った痛みから抜け出せていない。
一向に楽にならない苦しみを抱えて僕はどうしたらいいんだろう。

渡をあの日に置いて、僕ひとりが遠くに来てしまった。
僕ひとりが大人になってしまった。

五年前は気にも留めなかったけれど、僕らが好きだったこの曲は、別れの歌だった。