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二〇〇六年の九月、僕はひとり海へと出かけた。
渡の死から五年が経っていた。
僕は大学院生になり、翌年にせまった獣医師国家試験に向け、実習に勉強にと毎日忙しかった。
海と言っても、以前渡と企画した自転車旅行はやめておいた。
その頃、僕はもう千葉のあの街には住んでいなかったし、ひとりで自転車を漕ぐ気もなかった。
渡の死後、僕は二年間あの街に住んだけれど、学年が上がり校舎が変わると同時に引っ越した。
今の住まいは深空の自宅から三つ池袋寄りの駅だ。
深空は定時制高校を卒業したばかりで、両親と住みながら、隣の駅の花屋で働いていた。
手荒れがひどいなんて言いながら、毎日楽しそうに仕事に行く深空に、僕はこの海行きの件を言わなかった。
この旅は渡と僕が行くはずだった。完遂させるなら、僕ひとりでいい。
海行きに際しては念入りに仕度をした。
バックパックにはあの日と同じように水着を二枚入れ、おにぎりを三つとお茶のペットボトルを入れた。
古い地図も入れた。それは渡の遺品のひとつで、海までの道のりにマーカーがされてある代物だ。
電車で行く分には必要のないものだったけれど、僕はそれを丁寧にたたんでバックの内ポケットにしまった。