ベッドの横のイスに腰掛け、僕は涙が出るままに嗚咽し続けた。

随分時間が経ったようにも、一・二分だったようにも思える。
僕は尽きない涙で顔を濡らし呆けていた。

だからその声はまったく不意打ちだった。


「どうして泣いているの?」


声が聞こえた。
聞いたことのある軽やかで柔らかい女性の声だ。

僕は驚いて顔をあげた。
声の方向、目の前のベッドに横たわる彼女を見る。

遠坂深空は、顔をこちらに向け、大きな瞳を開けていた。

僕は一瞬わけがわからず固まり、次に瞳目した。
彼女は口元を覆う呼吸器を緩慢な動作で除け、まるで母親のような慈愛溢れる眼差しで泣き顔の僕を見つめた。
渡とは違う色の大きな瞳は、きっとずっと僕と渡が見たかったものだ。


「お願い」


彼女は言った。


「渡を呼んで。話があるの」


そして、夢見るような眼をゆるゆる閉じた。