電車に乗り僕は自然と泣き出した。
葬儀中はほとんど涙が出なかったというのに。

昼日中の電車はあまり乗客がいなかったが、それでも僕の姿は異様に映っただろう。
大の男が顔を覆いしゃくり上げながら泣いている。中年女性の集団がひそひそと何か言い合っていたけれど、どうでもよかった。僕にはもう全部わからなくなっていた。

渡が死んでしまった。

まだ知り合って4ヶ月しか経っていなかった。
映画だって数回しか行っていないし、海にも行けなかった。渡はまだ僕の蔵書を全部読み終えていない。
サッカーを見に行った時、帰りに「次はナイターに行こう」と言い合ったのに、ろくに計画だって立ててなかった。
いつだって果たせると思っていたからだ。

渡が出るはずだった旅、採用してやるって勝手に決めた僕のペットクリニック。
僕たちはまだとても若く、幼く、なんだってできたのだ。なんだって二人で楽しめた。

しかし、僕ひとり残されてしまった。
こんなところにひとりきり。ひどいじゃないか、こんなのあんまりだ。

僕はむせび泣いた。渡が死んでから一番泣いた。

やがて電車が駅についた。僕は無意識にある場所へ向かっていた。
泣きながら電車を降り、泣きながらそこに向かって歩いた。

あんまり激しく泣きすぎて、途中何度もしゃがみこんだ。
吐き気と頭痛がひどい。でも、その倍は胸が痛かった。