渡の葬儀は質素なものだった。
両親と親戚とが参列者のほとんどで友人とおぼしき人間は僕だけだった。

渡が死んだ一昨日と同じ、よく晴れた日で、坊さんの間延びしたお経が寺の本堂に暑苦しく響いた。

最後に花を手向けようと、カゴいっぱいの白菊と白百合を渡の棺に入れていく。
棺の中の渡は相変わらずすました顔をしていた。どちらかというと、機嫌よく眠っているように見える。

無愛想だった渡。嫌なことがあると、よく眉間にしわを寄せた。
今その部分は平らだ。
僕は彼の眉間を人差し指で撫でた。さらさらとしてしわは寄っていなかった。
それが彼に触れた最後だ。

出棺を見送り、僕はひとり葬儀場を後にした。火葬場まで行く気にはなれなかった。霊柩車が遠く走り去る。後を親族が乗るマイクロバスが、追いかけて行った。

ふと見上げた空は高く、美しい秋晴れだった。なんだ暑い暑いと思っていたけれど、空はちゃんと変化している。

ここ数日で夜間はぐっと気温が下がった。ア
キアカネが幾つも飛んでいる。僕の真横でも一匹ホバリングして、くるりと向きを変え、舞い上がって行った。

もう海とか行く感じじゃなくなっちゃったな。
やっぱり、一昨日行っとけばよかったんだよ。なあ、渡。

僕は胸の内で渡に呼び掛けた。渡が、そうだな、と笑った気がした。
気のせいだと知っていた。今度ばかりはどこからも声は聞こえない。