運ばれた時点で脈はまだあったらしいけれど、意識は戻らず、処置の甲斐なく出血が止まらず渡の身体は生命機能を終えた。
説明した医師は凍り付いている僕を置いて、そっと部屋を出て行った。僕は薄暗く冷房で冷え切った室内に渡と二人、取り残された。

渡の身体はすでに清められ、薄青の病衣に包まれていた。
傷のある腹部は見えないし、血の痕跡もどこにも見えない渡は、昨日僕の部屋の長座布団で横になっていた時と同じ顔をしている。

恐る恐る頬に指をくっつけてみる。
渡の頬はまだうっすらと温かく、感触は柔らかかった。

「渡ー」

僕は思い切って呼びかけてみた。
起きるかもしれない。
医者は渡が死んだと言ったけれど、とても信じられなかった。どう見ても寝てるだけだろう?

「渡、海は?」

答えは帰ってこない。渡の唇は閉ざされたままだ。

「僕、水着……買っちゃったよ?」

答えない渡の肩に手をかける。薄い痩せた肩は、病衣越しでもやはりまだ温かい。
ぐいぐいと押してみる。渡の力の抜けた身体はぐらぐらと揺れ、僕が手を離すと元の位置で糸の切れた人形のように動かなくなった。