「……この後バイトなんで、一時間くらいですけど」

「え?」

「お礼させてあげますよ」

遠坂の偉そうな言葉に、僕はいっぺんに嬉しくなった。

図書館を出ると、駅に向かって連れ立って歩く。僕が少し先を歩くので、先導みたいな格好だ。
大通りを渡ってすぐの古びた喫茶店が目的地。巨大パフェが有名な店で、大学の仲間と入ったことがあるけれどその時はパフェは頼まなかった。

せっかくだからと頼んでみたパフェは背が高く、てっぺんに花火がぱちぱちはじけていた。
僕自身も「想像よりでかい」なんて食傷気味に思ったけれど、テーブルにやってきたパフェを見て、遠坂が最高潮に不審な顔をしたのが面白くて笑いをこらえた。

「遠坂渡って名前……です」

強引にスプーンを持たせると、ひとさじ掬って遠坂が言う。

「遠坂くんか」

すでに知っているとも言えず、僕は頷いた。すると一口パフェを食べてから付け足す。

「苗字、あんまり好きじゃないんで呼ぶなら名前の方がありがたい」

「あ、じゃあ僕も恒って呼んでよ」

なんだろう、この自己紹介タイム。そんな疑問はお互いの頭にあったと思う。仲良くなってどうするんだ。
でも、僕の方には遠坂渡と親しくなりたい理由がある。文学を語り合う仲間がほしい。気まずい間を作らないように僕は話し出す。