僕たちはじっと池を見つめた。遠くのビル群が熱気でゆらゆらしていた。

「なあ、渡。おまえ、やっぱりそんなどん底の思考じゃよくないよ」

「姉が死にかけてて、俺の人殺しが成立しそうなときに、明るくいられるかよ」

渡なりの茶化し方だったけれど、やっぱり悲しすぎて、僕はわざと大きな声で言った。

「よし!僕が生きている実感を持たせてやる!」

僕のテンションの変化に渡がゆるゆると顔をあげ、手すりからこちらに向き直る。

「僕を殴っていいよ!」

「……暑くて頭おかしくなった?」

「そうじゃないよ!殴り合いって、若者らしいだろ?少なとも僕と渡は生きてるんだよ。生きてる実感を覚えておこう」

「馬鹿らしい……」

渡が本気で馬鹿にした声で言う。
こっちはおまえを元気づけようとしてるっていうのに。イライラが噴出してきて、なんだ無理しなくても殴れそうだなぁなんて思う。

僕は胸を張って宣言する。

「よし、じゃ僕からいく」

「え?は?……なに言ってん……」

渡の言葉が終わる前に僕は振りかぶった右拳を渡の左頬にたたきつけていた。