「タマちゃん、おはよう!」


後光が射している。と反射的に思ってしまったほどの、まぶしい実里さんのスマイル。

いや、実際に彼女の後ろの窓からは、朝陽がさんさんと降り注がれていたのだけど。


「おはようございます。いいお天気ですね」

「こんなに晴れるの久しぶりだよー」


わたしはアクビを抑えながら、実里さんに渡されたお盆を食卓へと運んだ。

“民宿たけもと”で迎える初めての朝。今日で、わたしが逃げ出してから三日になる。


「親御さん、心配してなかった?」


実里さんに訊かれたわたしは、ぎくりとしながらも「はい」と返事をした。

そして脳裏に浮かんだのは、昨夜のやり取り――。


   ***

「山本タマミちゃん。埼玉県在住。歳は十七歳……高校二年生ね」


昨日の夕食前。わたしが書いたデタラメの情報を、実里さんは何の疑いもなく読み上げた。

素性を明かしたくないとは言え、この人たちに嘘をつくのは心が痛んだのも事実だ。


「あれ? 電話番号が抜けてるよ。携帯持ってないの?」

「あるんですけど、壊れてしまって」

「そっか。このあたりには直せる店なんてないしなあ。うちの電話でよければ使ってよ。ここに泊まってること、家族に伝えときたいでしょ?」

「あ……はい。あとでお借りします」


その場はそれで切り上げたものの、夕食の後、実里さんが廊下にある固定電話の受話器をわたしに握らせ、「遠慮しなくていいからね」と言うもんだから、断り切れなくなってしまった。