新幹線の改札口は、行き交う人々で混雑していた。
出張に向かうサラリーマンや、家族旅行らしきファミリーたち。クリスマスを目前にひかえ、そこかしこに赤と緑の飾りつけが施されている。
そんな中、わたしが目にしたのは予想外の光景だった。
「よぉ、おまたせ。雄大(ユウダイ)」
「雄大くん、おはよう」
翼と美那子がほぼ同時に声を発した。彼らの視線の先には、待ちくたびれた感じで壁際に立っている、ひとりの男の子。
雄大と呼ばれたその人は、翼を見ると「おはよう」と小さく返事した。
「遅れて悪いな。環のバカが寝坊してさ」
翼がわたしを親指で指して言う。初対面の人に“環”なんてわたしの名前を言っても、わかんないでしょ。
と思ったけど、男の子は普通に「そうなんだ」と答えている。
ていうか、この人は誰なんだ? どうして普通にここにいるの?
目をパチクリさせるわたしをよそに、美那子が彼に話しかけた。
「雄大くん、荷物それだけ?」
「うん」
「えー、リュック1個だよ!? 少ないね」
「七日分なら充分だよ」
もしかして。とはさっきから思っていたけど、その会話で確信した。どうやらこの人もバイトに参加するらしい。
別にかまわないけど、先に教えてといてくれたらよかったのに。
「おい、環」
話に置いてけぼりのわたしの方を、やっと翼が向いて言った。
「こいつ、A組の山下 雄大。知ってるか?」