今となれば、あのときの自分をぶん殴りたい。
約束の冬休み初日。東京駅へ向かう地下鉄の中で、わたしはすでに逃げ出したくなっていた。
「あ、きたきた、環(タマキ)~!」
地下鉄をおりて改札を抜けると、前方からわたしを呼ぶ声がした。笑顔で大きく手をふる美那子の姿。
わたしは肩からずり落ちそうになる大きな旅行バッグを抱えなおし、彼女へと駆け寄った。
「遅くなってごめん!」
「ホントだよー。同じ電車に乗ってるはずが、いないんだもん」
「どうせ寝坊だろ」
美那子の横から、すかさず翼が口をはさむ。中学からの付き合いである彼は、わたしが寝坊魔だということをよく知っているのだ。
「いや、まあ、その通り」
ぽりぽりと頭をかいて苦笑いすると、
「楽しみすぎて昨日寝つけなかったんだよね?」
と、無邪気に腕を組んでくる美那子。わたしはあいまいに笑い返した。
「とりあえず、早く行こうぜ」
翼が言い、わたしたちは新幹線乗り場の方へ歩き出す。
と同時に、するっとわたしから離れる美那子の腕。