『タマちゃん』
やさしい声が返ってくる。光がまぶしくて、その表情はよく見えない。
ノア……?
笑ってるの――?
***
目が覚めたときには、嵐はすっかり止んでいた。
あたりはすべての音が消えたように静まり返り、夢で聞いたノアの声が耳の奥に残っている。
妙にリアルな夢だったな……。そう思いながら、わたしはベッドを降りて窓辺に立った。
窓は湿気でくもって向こう側が見えない。水色と紫のグラデーションが、ぼんやりと淡く映っている。朝焼けの色だ。
そっと指で窓ガラスを一度なでると、触れた部分だけがクリアになり、町の景色が小さく見えた。
そしてその部分に、動く人影が現れた。
「っ……!」
わたしは勢いよく窓を開けた。
眼下に広がる集落。朝モヤがただよう早朝の道路に、たしかに彼がいた。
トモくんを抱きかかえ、ゆっくりとこちらへ向かって歩いてくる彼が。