そのとき、集落の方から一台の軽自動車が走ってきた。
「実里ちゃん! あんた、そんなお腹で何やってんだ!」
そばに止まった車の運転席から、おじいさんが怒鳴る。そのとなりには、見覚えのあるおばあさんの顔。昼間、トモくんに案内してもらって行った商店のおばあさんだ。
あのときは想像すらしてしていなかった。まさかこんな事態になるなんて。
ほんの数時間前、トモくんはマナちゃんに告白すると決意し、わたしたちは大いに盛り上がり、一緒においしいドーナツを買ったんだ。なのになぜ、今こんなことに。
「トモくんのことはみんなに任せて、実里ちゃんは家にいなさい。お腹の子を守れるのは、お母さんしかいないでしょう?」
ね、と諭すようにおばあさんが言った。実里さんは愕然とした表情で、けれど小さくうなずく。
おじいさんが後部座席のドアを開け、実里さんを車に乗せた。