バスなんか到着しなければいい。今すぐエンジントラブルで止まってしまえばいい。スキー場の雪も溶けちゃって、バイトが中止になればいい。
そんな風に願ってしまうわたしは、おかしいんだろうか?
わかってる。たかが七日、我慢すればいいだけの話。今までだって我慢してきたんだから。
でも。でも……。
はるか前方に高速バスのシルエットが小さく現れ、それは無情にもどんどん大きくなってくる。
あれに乗れば七日間は戻れない。
後戻りは、できない――。
「……ごめん」
言葉が飛び出たのは、ほとんど無意識だった。
「バイト、行けなくなった」
「え?」
「親戚が危篤だから帰ってこいって、親からメールが入ってたの」
電源すら入れていないスマホを見ながら、自分でも驚くほど淀みなく、嘘が口をついて出る。
何言ってんの、わたし。止まれ、言葉。
そう言い聞かすのに、口が動きを止めない。焦れば焦るほど後に引けなくなり、心臓は破裂しそうなほど速くなっていた。
「前から入院してた親戚なんだ。急に容態が変わったらしくて。翼、ホントにごめん。バイト約束してたのに」
「え、あっ……いや」
翼が首を横にふる。
「バイトの方は、人数に余裕あるみたいだから大丈夫だと思う。つーかお前、ひとりで帰れるか?」