お母さんウサギが窺うようにそろりと近寄ってきて、ノアの指先から十センチほどの距離で鼻を揺らす。匂いをかいでいるんだろう。
が、すぐに踵を返し、子ウサギとともに走り去ってしまった。
「あちゃ。逃げられたか」
ノアが肩をすくめる。
「残念だね」
「子ウサギを連れてるから、よけいに警戒心が強いんだろな。親が子どもを守りたいのは、人間も動物も同じだ」
ノアのそのつぶやきに、わたしは反応した。
親……か。実は前から気になっていた。ノアの両親はどんな人なんだろうって。
今までプライベートな質問はひかえてきたけれど、少しくらい訊いてもいいよね? 知りたいって思っても、いいよね?
「……ノアのお父さんとお母さんって、どんな人?」
「さあ」
「さあって」
わたしは唇をへの字に曲げる。はぐらかすってことは、わたしには教えたくないってこと?
そりゃあ、わたしだって本名を明かしてないし、一人旅だと嘘をついてるけど。
でも、昨日は翼たちのことを打ち明けたんだから、ノアだって少しくらい自分のこと話してくれてもいいのに。