できるだけ大きな声で名前を呼ぶと、彼は前を向いたまま「ん?」と返事をした。
「………ごめん。ありがとう」
橋倉くんが、小さく笑った声がした。
それから穏やかな声で、「謝るようなことしたの、俺に」と言った。
うん。
したよ。何度も何度も。
私を見据えるときの、彼の真摯な瞳。それに見つめられる度、私は私の中の醜いものを実感して、辛くなった。
今だって、少し辛い。だけど不思議と、心は落ち着いていた。
だって橋倉くんが、あまりに優しいから。
ぜんぜん怒らずに、私の情けないところ、ぜんぶ受け止めようとするから。
なんだか私は泣きたくなった。
私がきつく当たる理由も、何も訊かずに彼は優しさと明るさをくれる。
そんな橋倉くんを前をすると、彼に嫉妬してひねくれていた自分が滑稽で、馬鹿らしくなった。
それもまた、私を悲しくさせた。