「私、やっとできる気がするんだ。自分の大切なものを大切にしながら、今度こそちゃんと周りと向き合えるって信じてる。颯が教えてくれたんでしょう?」
大丈夫だよ、颯。
この世界はあまりに大きくて、ちっぽけな私たちはいつも悩んでばかりだけれど。
この世界のやさしいところも綺麗なところも、私たちはちゃんと知っているから。
今度こそ自分の大切なものを見失わずに、きっと外の世界と向き合える。
うつむいている颯に、そっと近づく。
中学校の屋上で彼がそうしたように、今度は私が彼を抱き締めた。
颯は泣いていた。
今まで我慢していた分が一気に溢れたみたいに、彼は大粒の涙を流した。
私は背伸びして、そんな颯の頭を撫でる。
もうひとりで泣かなくていいよ。
前を向くための涙は、ふたりで流せばいい。