「この世界に、ふたりきりだったらよかったのにね」
声が震えた。
颯が目を見開いて、私を見る。
上手く笑えている自信はなかった。普段あんまり笑わないからか、下手くそな笑顔しかつくることができない。
「そしたら、こんなに悩むことだってなかったのに」
私と颯。それだけなら、この世界に満ちていたのは幸福だけだっただろう。
寂しくない。邪魔者もいない。
きっといちばん、幸福な形だ。
………だけどそれは、すべてをあきらめた世界でもあるんだ。
颯は私の顔を見て、笑顔を歪めた。
そして目を伏せて、「嫌いだよ」と呟く。
「俺から理央をとっていった、外の世界なんか大嫌いだ。俺の世界は、俺と大事なものだけでいい。それがいちばん幸せなんだよ」
颯は、憎んでいたんだ。
彼をひとりぼっちにする、この世界を。大きな歯車を。
だから、自分の世界を守るための生き方をする。そこに閉じこもって、周りのことは気にしないで。
……だけど。
「颯ももう、知ってるでしょう。外の世界の綺麗な景色も、颯を大事にしてる人のことも」
彼は唇を噛んでうつむいた。
彼が憎んでいた外の世界で、彼は太陽だった。