涙で視界がぐにゃりと歪んだとき、風が私の身体を通り抜けた。


目元を拭って、顔をあげる。


病室は消えていた。


透明な世界で、高校二年生の颯はぽつんとひとりで立っていた。



彼は私に気づくと、眉を下げて微笑んだ。



「……いいんだよ、理央。俺はもう、充分満足した。あとはもう、この狭い世界で過ごすだけだ」



ここには、色がない。風もない。景色もない。


あるのは、透明だけだ。


どんなものも受け入れられるけれど、その実、どんなものより排他的で、他との交わりを許さない。



「理央には、理央の世界がある。俺なんかに付き合ってたら、外の世界と関われなくなっちゃうよ」

「………颯」



気づけば声は出るようになっていた。


呼べば、彼は目を細める。この世でいちばん愛しいものを見るような目で、私を見つめる。


目があって、喉の奥が痛んだ。


『俺の世界のまんなかにいんのは、理央だよ』


涙が込み上げたけれど、必死にこらえる。


泣きたくても、笑おう。前を向こう。


何度も私を慰めてくれた、颯のように。