「………それで……?」

「そしたらそいつ、理央の姿で言うんだよ。『大事なものをくれたら、願い事を叶えてあげる』って」


まるでどこかの夢物語だ。


だけど颯の言葉は冗談を言っているようには聞こえない。



「『俺には渡せるような大事なものなんかない』って言ったら、妖精は『この子の記憶でもいいよ』って」



………この子、って。


まさか。


私の表情で、私が考えていることに気づいたのだろう。


颯は目を伏せて「ごめんな」と言った。



「理央の記憶なのに、勝手に渡して……ほんとごめん。理央のスランプも、俺が記憶を消したせいだ。……でも藁にもすがる思いだった。理央が忘れてても、それでも会えるならなんでもいいって」



私の中の颯の記憶を代償に、颯はここにいるってこと……?


だから私は、すっぽりと彼に関することだけ不自然に忘れていた。


風景を描くきっかけになったのも、『伝えたかったこと』も、ぜんぶ颯が関係していたから、私は忘れていた。