「…………………」
嫌だ。帰りたくない。
だけど時間は待ってくれない。いずれ学校は閉まってしまう。ここにずっといることはできない。
私はそっと筆を置くと、ぎゅっと手のひらを握りしめた。
「……うん。帰ろう」
それから片付けをして、六時半には学校を出た。
ふたりで無言で駅まで歩く。
颯の『行きたいところ』ってどこだろう。
途中で寄り道するのかと思っていたけれど、私たちはそのまま駅についた。
「……え、颯、今日行きたいとこあるって」
「うん、だからちょっと待ってて。切符買ってくる」
え?
ポカンとして改札前で立ち止まった私をよそに、颯は券売機で切符を買って戻ってきた。
戸惑っていると、背中を押されて改札を通るよう促される。
定期券を使って改札を通ると、やっぱり颯もさっきの切符で改札を通っていた。
……颯も、私と一緒に地元の街に行くってこと?
混乱のまま、私たちは電車に乗り込んだ。
約十五分。
電車に身体を揺すられながら、私たちは無言でドアの近くに立っていた。