「…………………」
私なら、大丈夫なんて。
そんなこと、どうして根拠もなく言えるのだろう。
「こんちはーす!」
そんな元気のいい声と共に、美術室のドアが開けられた。
心臓が跳び跳ねそうになって、思わず彼から目をそらした。
「ああ、こんにちは。橋倉くん」
「あ、古田先輩!」
先輩に気づくと、颯は表情を輝かせた。颯が積極的に話を進めていき、男子二人はあっという間に盛り上がっていった。
私は颯と何を話せばいいのかわからず、ふたりが話している間にそそくさと自分の作業に取りかかった。
イーゼルを机の前まで持ってきて、ロッカーから絵の具を取り出した。
すぐ近くから、先輩と話す颯の声が聞こえる。
ロッカーから他の道具を出していたら、ふと颯の声のトーンが落ちたのが聞こえた。
「……俺、美術のこととか、なんにもわからないですけど。理央と先輩の絵は、すごいってわかります」
ピタ、とバケツを持とうとした手が止まる。
一瞬だけその場に沈黙が落ちて、次に発した颯の声が、やけに強く室内に響いた。
「いきなりお邪魔した俺を、すんなり受け入れてくれてありがとうございました。先輩」
見ると、颯は頭を下げていた。