颯は目を見開く。
その表情を見て、ああ、と思った。
颯は、私が彼を忘れていたことを、知っているんだ。
「………………」
颯は言葉を失っているようだった。その様子を見て、もどかしくなる。
どうして黙っているんだろう。何か言ってほしい。
私は思い出したんだ、颯のことを。
嬉しくはないの?喜んではくれないの?
きみなら、『やっと思い出した』って言って、笑ってくれると思っていたのに。
「………理央」
ようやく彼から聞こえてきた声は、いつも通りの彼のものだった。
「今日の放課後、部活終わったあと時間ある?」
「………ある、けど」
「一緒に行きたいところがあるんだけど、いい?」
「…………うん」
颯はニコニコしていた。
だけどそれは心からの笑顔じゃなくて、きっとつくられた笑顔なんだろうと思った。
行きたいところ。
颯が今まで私を誘って行ったところは、駄菓子屋を除いて、あのスケッチブックに描いてあった場所だった。
いずれにしても、私が過去に描いたことのある場所だ。