「………綺麗だね」

「うん」


なんとなく彼の隣に腰を降ろす。


川の向こうには建物の光がいくつも浮かんでいて、夜の町並みをカラフルに彩っていた。


「………なぁ、理央ー」

「なに?」

「前にさぁ、海で天動説の話したの、覚えてる?」

「………覚えてるよ」


颯はあのとき、『地動説より天動説の方が好き』だと言っていた。


大きなものが動かす世界で小さなものとして生きるより、自分がいる場所を中心に動かす小さな世界で生きたいと。


『よくわかんない広すぎる宇宙より、自分がいる地球が大事で、そこに住んでる人が大事で。地球が世界のまんなかにいるのは、すごく自然だと思う』


『みんな、そうだと思うよ。自分が生きてる場所が世界の中心だよ。他の人のために生まれてきたんじゃないんだから』



颯が言っていた言葉を思い出して、なんだか不思議な気持ちになった。


あのときは、今、彼とこんな風な関係になるなんて、少しも思えなかったから。