少し駆け足で、階段の下へ向かった。
何も言えないのか、ポカンとしたままの颯を見上げて、私は言った。
「昨日はごめんなさい」
颯はさらに驚いた顔をした。私が謝罪したのが、そんなに意外だったのだろうか。
また少し彼を腹立たしく思いながら、けれどそのまま続けた。
「私、颯のこと、全然わかってなかった。勝手に決めつけてたんだ。だから、私が悪かった。 私はもう大丈夫だから、これからも颯が好きなときに、美術室に来ていいよ」
周りの男子たちが、一斉に盛り上がり始めた。颯の肩をわざとらしく押したり、腰を叩いたりしている。
だけど颯はそれには応じず、笑いもせず私を見つめ続けた。そしてゆっくりと、頷く。
「わかった。……俺も、悪かったとこあるから、お互い様な。ありがと、理央」
彼にそう言われたとき、ようやく私は『橋倉颯』という人物を受け入れられた気がした。
心が軽くなって、安心して、なんだか泣きそうになった。
瞳に涙が溜まるのを誤魔化そうと、へらりと笑ってみせる。
颯はそんな私を一瞬だけ驚いた顔で見て、それから明るい笑顔で返してくれた。