学校という空間の息苦しさなんて、彼はなんにも知らないと思っていた。


私はそんな彼が羨ましくて、妬ましくて、眩しくて、惹かれて。


それが、間違いだったとしたら?



私は、今まで何度も見てきた、颯の色んな笑顔を思い出した。


明るい笑顔、無邪気な子供みたいな笑顔、人を安心させるための優しい笑顔。


………眉を下げた、切ない笑顔。



あれが、辛い顔を見せないためのものだったとしたら。


『笑いたくて笑う』んじゃない、『笑おうとして笑う』んだ、彼は。



そこで、昨日私が彼に言った言葉を思い出した。



『颯には、わからないよ。私の気持ちなんか』



あのあと、彼は『誰からも嫌われていない人間なんかいない』と言って。


『俺、今日は帰るよ』


へらりと笑って、そう言ったんだ。



「…………あ」



傷つけた、と思った。


私は、彼を傷つけた。


『颯にはわからない』と言って、一方的に拒絶した。


だけど颯は笑った。私のために。傷ついた顔すら見せずに、笑った。


あれは、平気だったからじゃない。


私のために、笑おうとして笑ったんだ。