颯が自分の持つ大きな歯車のことを自覚していないというのは、彼の魅力でもある。
一言で、長所だとか短所だとか言える面ではない。
だけど、そんな颯に腹を立てているのは、私みたいなひねくれた人間だけだと思っていた。
優しくて人気者な彼を素直に受け入れられない私は醜くて、彼を囲って笑うみんなが正しいのだと。
………実際は、違う?
みんなに愛されているように見えた颯でも、実は他人からしかめた顔を向けられることはあって。
『絶対誰からも嫌われてない人間なんかいないんだよ。俺も、理央も、みんなも』
それを、颯もわかっている……?
「…………………」
私は、呆然とした。
私の中で勝手に築いていた橋倉颯という人物像が、音をたてて崩れていく。
彼は、いつも笑っていた。
それは間違いじゃない。
だけど、それはすべて心からの笑顔だったんだろうか。
本当に颯は、いつも笑いたくて笑っていたんだろうか。