「文さん、俺が荷物運びますよ」
「え、あぁ、ありがとうね、凪くん」
話を打ち切るように、凪くんが文さんから掃除道具を取った。それにホッとしているりぃを見て、胸が切なくなった。
「りぃ……」
「ごめんね、秘密にしてて」
文さんと凪くんがいなくなった廊下で、私はりぃに声をかける。するとぎこちなく笑ったりぃに謝られた。
「そんな事はいいの、だけどりぃは……」
──凪くんが、好きなんじゃないの?
そう聞こうとして聞こえなかったのは、りぃが泣きそうな顔をしたからだ。
「思い通りに、生きられたらいいのにね」
りぃの、まるで自分の境遇を憂うような言葉に私はただ、「……そうだね」と返す事しか出来なかった。
だって、今私が何を言ったとしても、りぃの心は救われない。そのための言葉をまだ見つけられずにいたから。
私と拓海先輩、りぃの3人は、警備室へやって来た。
中は3台のパソコンが並ぶデスクに、各防犯カメラの映像を一括で見れる大きな液晶画面が設置されていて、いかにも警備室って感じだ。
「これが、鏡が壊された日曜日の映像です」
「倉庫に入ったのは、掃除服を着た文さんだけだね」
3人でビデオを確認すると、文さん以外、誰かが部屋に入った形跡は無かった。それどころか、他の部屋や廊下にも不審人物は映っていないのだ。
「これは、音声は録音されないのか?」
「あ、はい……録画機能のみです」
そんな2人の会話を聞きながら映像を見ていると、開いた扉からレオンが入っていくのが見えた。
「……え、レオンが倉庫入ってったよ!?」
「そうなの、この時も多分、文さんが掃除してる所にレオンが侵入したんじゃないかな。でも、全然吠えたりしなかったし、番犬の才能は無いみたい」
やれやれといった感じで、りぃはため息をつく。
レオンは少しして倉庫を飛び出していき、それに続いて掃除道具を持った文さんが倉庫を出て行った。
「……少し整理したい」
拓海先輩は映像を一通り確認すると、眉間を人差し指でマッサージしながらそう言った。
少し、休憩が必要そうだ。鑑定で拓海先輩にどんな影響があるのかはわからないけれど、疲れてるのは明白だった。