「えぇ、やっぱり痛みますね。でも、お嬢様が土日に休みをくださったおかげで、随分楽になりましたよ」

「良かった……文さんはこれまで休みなく働いてくれてたの。でもいくら短時間とはいえ、体に負担がかかるから……」

──これじゃあ、確かに鏡を割るのは難しいかも。

というか、こんな優しそうな人がそんな事するはずないって信じたい。本当に誰がこんな事をしたのだろう。情報が集まれば、集まるほど、ますます真実は遠のいていくように思えた。

「それよりお嬢様、お得意様のご長男様とお見合いをしたとか。お話は進んだんですか?」

文さんの言葉に、私は目が点になる。

──え……誰が、お見合いしたって……?

驚いてりぃを見ると、口パクで「ごめん」と肩を竦められる。 そしてすぐに、文さんに向き直った。

「あ……まあ、勝手に進んでるって感じかな」

「すみませんねぇ、お嬢様の事となると心配で。そうでしたか、旦那様もお嬢様の幸せを願っての縁談だったのでしょう」

本当にりぃお見合いしたんだ。しかもお得意様って、鏡割っちゃった家の長男って事だ。それがかなりヤバい状況だという事は、私にもわかった。想像以上にスケールのデカイ事件だったのだと気づいて焦る。

「……うん、わかってる」

でも、悲しげに微笑むりぃの顔に、何かが引っかかった。

──りぃ、この縁談が嫌なのかな。

だって、さっき庭師の凪さんのこと特別に思ってる風だった。これは勝手な想像だけど、身分差のせいで許されない恋だったりするのかもしれないと。