「ここが……フカミ喫茶店」

呟いたとおり、アーチ状の銅色のプレートに金の字で書かれた『フカミ喫茶店』の文字。外装は赤茶色のレンガでできており、壁からつり下げられたガス灯が、明治時代にでもタイムスリップしたような、レトロな作りだった。

「若い人には、なかなか入りずらいと思いますが……」

呆然とお店を見上げていると、深海さんが声をかけてくる。

「そんな事ないです!こういうレトロチックなの好きですよ!」

なんというか、都会のキラキラした世界も好きだけれど、こういう昔を感じさせる建物も落ち着くなと思う。

「ふふ、ありがとうございます。それでは、いらっしゃいませ、来春さん」

カランッカランッと耳心地の良い音を立てて深海さんが扉を開けてくれる。一歩踏み出そうとすると、そのすぐ横をクラウンが横切って先にお店へと入っていく。

なんだか、不思議の国のアリスを思い出す。物語では時計を持ったウサギが不思議の国に連れて行ってくれるけれど、私はどうやらクラウンと素敵な老紳士に招かれたみたいだ。

ウキウキしながらまた一歩前に進むと、目の前に広がる世界に私は息を呑んだ。