「絶対認めないから!」と背中越しに女の子の声が聞こえた。こういうのは昼ドラだけで十分だと、うんざりした。

校門を出ると、喫茶店までの近道である住宅街の中を拓海先輩と歩く。

まだ空が明るいせいか、近所の子供が4、5人ほど集まって駆けずり回っているのが見える。

それをぼんやりと見つめていると、「お前、最初素通りしようとしたろ」と拓海先輩が文句を言ってきた。

「え……って、当たり前じゃないですか!!」

ちょっと不機嫌そうに言われ、怒りたいのは私の方なのにと腹が立つ。本当に私がリンチにあったらどうしてくれるんだ。

「……何でだよ」

「修羅場になるからですよ!」

──何言ってんの、当たり前でしょーが、この鈍感。

あぁ、思い出すと震える。明日からの高校生活どうすんの。私、絶対に拓海先輩のファンに殺られる。

「なおさら、助けろよ……」

「私が!?」

「お前以外にいないだろ」

なんじゃそりゃと、相変わらずの横暴ぶりに呆れながら、心の端ではほんの少しだけ。
誰も寄せ付けない拓海先輩が、私だけは傍に置いてくれる事が嬉しいと思っている自分がいた。

あれやこれや軽口を叩きながら、拓海先輩とバイト先に向かっている途中で大事なことを思い出した。