「拓海、誰その子。私、知らないんだけど」
明らか、美人さんは私を睨んでいる。そりゃ面白くないよね、この人拓海先輩の事、絶対狙ってただろうし。
「こいつが誰かなんて、佐野には関係ないだろ」
拓海先輩の腕の中、借りてきた猫みたいになる。
「だって、今まで特別な女の子なんていなかったでしょ?なのに……しかも、拓海につりあわないじゃん、そんな子!」
恐れていた修羅場に、巻き込まれてしまった。
──うぅ、帰りたいっ。
向けられる敵意に、体が金縛りにあったみたいに動かなくなる。
「面倒だな」
──うわ……でたよ、ブリザード。
面倒って……本当に容赦ないんだから。ほら見てよ、目の前の女の子固まってるじゃないか。
「俺は、傍にいたい人間は自分で決める」
「え……」
──今、拓海先輩なんて言った?
私の耳がおかしくなければ、傍にいたいって聞こえたような気がする。あのブリザード男が、まさかね。
「行くぞ」
「ちょっ、拓海先輩!?」
グイグイ腕を引っ張られて、引きずられるようにして歩き出す。