「ふふっ、一緒に帰ろうよ」
パッチリ二重にプルップルの唇。私には欠片もない色気に圧倒されて……2人に近づけない。
だって、遠目に見ても2人はお似合いのカップルだ。そう思ったら、胸にツキンッと何かが刺さるような痛みが走った。
──私、どうしてこんなに胸が変になるんだろう。
不思議に思っていると「ねぇ拓海、あの子知り合い?」と美人が私を見て気味悪そうに言った。
──あ……さすがにこんな所で突っ立ってたら、変に思われるよね。
「わ、私……」
「また、拓海のファンの子?その容姿じゃ釣り合わないのに、懲りないわね。拓海は私の彼氏になる予定なの」
黙っているのも気まずくなって声をかけた私を、バカにしたような目で見る女の子。胸も痛いし、情けないしで早くここから立ち去りたい。
拓海先輩とはバイト先でも会えるんだから。
そう思って、2人の横を通り過ぎようとした。
「……こいつは、そんなんじゃない」
「え……?」
その瞬間にグイッと腕を掴まれる。驚いて顔を上げれば、拓海先輩が無表情に私を見下ろしていた。
拓海先輩は何で、私の事を引きとめたりなんかしたのだろう。問うように見つめれば、相変わらず感情のわかりずらい瞳で、その真意がわからない。