「ふふ、面白い方だ。私は深海 進(ふかみ しん)と申します。この先の喫茶店でマスターをしております」
──あ、やっぱり喫茶店のマスターさんだったんだ。
それにしても、この辺りに喫茶店なんかあったかなと思い、私は周りを見渡す。
「どうかしましたか?」
キョロキョロする私に深海さんが声をかけてきた。そうだ私、今深海さんと話していたんだったと反省する。すぐに注意力が散漫するところは、私の短所だ。
「あっ、私は七海 来春です!」
慌てて自己紹介をすると、深海さんは人の良さそうな笑顔を返してくれる。
「はい、よろしくお願いします……おや?」
深海さんと話していると、不意にゴールデンレトリバーを見下ろした深海さんが首を傾げた。
「クラウン、お前は何を咥えているんだい?」
「え……?」
深海さんの視線はクラウンの口の中に向けられている。詳しく言えば、そこでキラキラと輝く黄緑色の石に。
「あぁぁぁぁぁーーっ!!」
──私のペンダントが……!
私のペンダントは、見事にチェーンが引き千切られていた。私はこの世の終わりか、みたいな気分で悲鳴を上げる。
「お守りなのに……ショックすぎて死にそうぅ~っ」
「これは、なんてお詫びしていいか……ん?」
クラウンの口からチェーンの切れたペンダントを手に取った深海さんは、驚いたような顔をした。
「これはペリドット……悪しきものを払う太陽の宝石、ですか」
「え?」
「ペリドットのもつ力のことですよ。宝石にはそれぞれ力があります」
あ、パワーストーン的な効果の事だろうか。私もこの石がペリドットの宝石だっていうのは知っていた。このペンダントをあの人から貰った時に気になって調べたのだ。けれど、その宝石の持つ意味までは知らなかった。