「そうか、そんな風に言われたのは初めてだ」
「え……」
そう言った拓海先輩の顔を見て、私は自分の目を疑った。少しだけ、ほんの少しだけど拓海先輩は笑っていたのだ。
「そろそろ帰るぞ」
拓海先輩がベンチから立ち上がる。
その時にはもう、いつもの無表情に戻ってしまっていた。
すると、今度は拓海先輩から見下ろされる。
この瞳には、私には見えない世界がきっと映っているんだろう。そして、想像もできないような悩みも沢山抱えてるのだ。そんなたくさん柵が、拓海先輩の笑顔を奪っているのだとしたら……。
「おい、ボーっとしてんな」
「あいたっ」
コツンッと、頭を小突かれる。
「行くぞ」
「はぁーい」
変な使命感が沸いた。この無表情でブリザードな男を、笑顔にしてあげたい……と。