「お母さん、優輝くんに話してあげてください」

「お前……」

拓海先輩の隣に並んで、お母さんにそう言った。
隣にいる拓海先輩が、じっと見つめてくるのがわかる。表情を確認したわけじゃないけれど、肌で感じた。

「優輝くん、お母さんの事を探すために、私たちの喫茶店を一人で訪ねてきたんですよ」

「優輝が……」

「真実を知る事、怖かったはずなのに……。泣いたりせずに、お母さんに会いたいって一心で、ここまで来ました。優輝くんはもう、立派な大人です」

優輝くんはきっと、どんな答えでも知りたいはずだ。大好きなお母さんの気持ちなら、どんなに悲しい事実でも。

「あなた……そうね、そうかもしれない」

「ママ……」

「……優輝、ママにはね、優輝がパイロットになりたいっていう夢と同じように、捨てられない夢があったの」

それが、お母さんにとってアンティークドールの事だとすぐにわかった。ここにいるアンティークドールたちはきっと、お母さんの夢そのものなのだ。

「夢を捨てて、家を守って欲しいと言うパパのお願いを叶えてあげる事が出来なくて、最後まで分かり合えないまま、別れる事なってしまった……」

価値観が違ったのか、お母さんは家と夢との間でたくさん悩み苦しんだのだろう。

「家より夢を取った私に、優輝を連れていく資格なんて無いと思ったの。だからせめて、私の想いを置いていくつもりでこのアンティークドールを」

人は長い時の中で、選択を迫られる。
絆か夢か、どちらをとっても傷つく道を進んでいかなければならない時もあるのだ。

何が正しいかなんて、他人がとやかく言えることじゃない。だってそれは、その人自身が選び取る決意だから。

このアンティークドールに込められた想いの深さを知った時、なぜだか頬に涙が伝った。