唇を引き結び、グッと目に力を入れて泣き出しそうなのを堪えている優輝くん。そんな優輝くんを見て、拓海先輩は「結局……自分の幸せか」と忌々しそうに呟いた。

「わかったら、帰って……」

「優輝、帰るぞ」

拓海先輩が優輝くんの手を強く掴み、歩き出す。

──このまま、帰って本当にいいの?

今離れたらもう一生向き合えないかもしれない。二度と会えないかもしれない。そんな時、遠ざかる優輝くんの背中を見たお母さんがグッと唇を噛んだのが見えた。

「うぅっ……」

何かに必死に耐えるように、ギュッと両手を握りしめている。

「あ……」

もしかしてお母さんは、優輝くんを引き留めたいのかもしれない。どうかそうであってほしい。それなら、私にできる事は……たった一つだ。

「優輝くん!!」

「お姉ちゃん……?」

呼び止めた私を、優輝くんは困惑したように振り返る。

「おい、帰るぞ」

拓海先輩が私を急かしたけれど、一歩たりともここから動く気は無かった。