「拓海先輩は、誰よりあの子の気持ちをわかってたはずなのに……。でも、だからこそわからなかったんです」

──改めて人と向き合うって怖いなと思う。

私の言葉が、意見が相手を傷つけないか、こういう踏み込んでいいのか際どい話題はとくに。

でも、私みたいな存在が、拓海先輩に必要なら。

「どうして、あの子……優輝くんを助けてあげないんですか?」

私は、傷ついたっていい。それくらいの覚悟で、拓海先輩に向き合おうと決めた。

仕事ばかりのお母さんと距離をとった拓海先輩、それならきっと一番理解できるはず。

「一度距離を置いた人に会いに行くことが……どれほどの勇気がいるのか、拓海先輩にはわかるはずです」

拓海先輩からの返事はない。それでも私は話し続ける。

「居場所がわかるだけじゃ、駄目なんです。本当に優輝くんに必要なのは……一歩踏み出せない背中を、押してあげる事じゃないですか?」

私は、精一杯伝えた。後は、拓海先輩を信じるしか無いと思う。

「……おい」

拓海先輩が、ついに口を開いた。

「は、はいっ」

怒られるのを覚悟でビクビクしながら、私は返事を返す。

「いつまで、そうしてるつもりだ……」

──そうしてるって……?

何故そんな事を言われたのか検討がつかず、頭を下げたままの状態で悩む。拓海先輩の言葉はいつも唐突で、単語のみで構成されているために、理解するのがなかなか難しい。

「顔上げろ」

あ、そういえばずっとお辞儀したままだった。それが気になってたのかなと、そう解釈した私は恐る恐る顔を上げて拓海先輩の顔を見上げた。

相変わらずの無表情。でも、拓海先輩が話してくれた事、それだけで嬉しくて、気持ちが軽くなる。