「へ、どういう事??」

「そこ、空の部屋」

──あ……もしかして、私部屋間違えた?

私がいたのは階段上がって右の部屋。あれ、深海さんは左の部屋が拓海先輩の部屋だって言ったんだっけ。

数分前の記憶が曖昧とか、忘れっぽいとかいうレベルじゃないくらいに私の記憶力が乏しい。

──せっかく部屋の場所教えてくれたのに……。
気合が入ると空回りする所は、私の短所だ。

「ゴホンッ」

咳払いをして、さりげなく拓海先輩の前に立つ。
気を取り直してもう一度。

「拓海先輩、さっきは……ごめんなさい!!」

と勢いよく頭を下げた。

それはもう、このまま土下座に移行できる深さと俊敏さで。体の柔らかさには自信があります……って、そうじゃないだろ!と自分にツッコミを入れながら。

「あの子の気持ちがわからないとか、拓海先輩の何も知らないで、冷たいとか言って……本当にごめんなさい!」

頭は下げたまま、必死に謝る。さっきから拓海先輩は何も言わないし、床しか見えないからか不安ばかりが募っていく。

「少し、深海さんからお母さんの事を聞いてしまいました……」

「っ……」

拓海先輩が息を詰まらせたのをなんとなく感じる。拓海先輩の許可なく聞いてしまったのは申し訳ないけれど、私は知れて良かったと思っている。

でなければ私は、拓海先輩の事をずっと酷い人だと勘違いしたままだったかもしれないからだ。