「そこでワケあって引き取り手のなくなったアンティークが、ここには集まっています」

「ワケあって?」

「持っているだけで悲しみが蘇ったり、物に宿るのは美しい思い出だけではありませんからね」

──そうだったんだ……。

このアンティーク達を、拓海先輩のお母さんはどんな気持ちで引き取ってきたんだろうと不意に気になった。

「お母様は、このお店を拓海くんに残すために奮闘していました。同じ力をもった拓海くんの居場所を作ってあげたかったんだそうです」

お母さんが拓海先輩のために残したのが、このフカミ喫茶店なんだ。それだけでお母さんがどれだけ拓海先輩を愛していたのかが分かる。

「このお店に鑑定の仕事が定期的に入るのも、お母様がお店の知名度を上げたからです」

「そうだったんですね……」

あのチラシだけでお客さんが集まるとは思えない。だからこうして、お客さんが来る事が不思議だったんだけど、やっと理由がわかった。

「ですが、その頑張りが旦那様や拓海くんには伝わらず、拓海くんが小学校に上がるのと同時に離婚してしまいました。そして拓海くんも、家に帰ってこないお母様と距離を置くようになったのです」

「なんだか、悲しいすれ違いですね……」

お母さんは拓海先輩のために、拓海先輩はお母さんが好きだからこそ寂しくて、お互いを想い合っていたからこそすれ違ってしまったのだろう。

「そうですね。ですが不幸はそれだけでなく、お母様はお店が軌道に乗ってきた所でホッとしたのでしょう。今までの過労が祟り、亡くなっています」

──えっ……亡くなった……?

ドクンッと、胸が嫌な音を立てて騒ぎ出す。

「でも、離婚してお母さんまで亡くなったら、拓海先輩は……」

お父さんも離婚していないのに、身寄りがなくなってしまう。私は拓海先輩が今、どうやって生活しているのかが心配になった。