「アンティークドールは100年以上前、ビスクドールと呼ばれていた」
「へぇ……」
──すごい。
そんな昔からアンティークドールは存在したんだと思うと、つい感動の声が漏れた。
「ビスクドールは19世紀、ヨーロッパのブルジョア階級の貴婦人、令嬢たちの間で流行していたことから女の形体をとる事が多い」
「あ、でも……」
依頼品は男の子のアンティークドールだ。
──って、よくみるとこの子……似ている。
私は目の前の男の子とアンティークドールを交互に見つめてハッとした。
──や、やっぱり……!
驚いている私に拓海先輩が頷く。
「そうだ、これは世界で一つしかないお前をモデルにしたアンティークドールだ」
「えっ、僕の……」
「そうだな、どこかに……あぁ、これを見ろ」
拓海先輩はアンティークドールの左足を持ち上げた。その裏には『Salon de mon trésor 』と書かれている。
──え、なんて読むの、どういう意味?
日本語以外は専門外なので、頭に「?」がたくさん浮かぶ。
「サロン・ド・モントレゾー……宝物を売るお店という意味ですね」
首を傾げてると、見かねて深海さんが教えてくれた。
「素敵な名前……」
きっと、お母さんは宝物を作るような気持ちで、アンティークドールを作っていたんだろうなと思った。
「ネットで調べてみたよ、隣駅から少し歩いたところにあるみたい」
空くんが検索してくれたのか、携帯の画面を見せてくれる。
「ここに、お前の母親はいる」
「……あ、ありがとうっ!!」
パッと男の子の顔が、満開の花が咲くように明るくなった。
──良かった。
後はお店に連れてってあげれば、この子はお母さんに会えるという事だ。これが拓海先輩の誰かを幸せにできる力なのだと、感動した。