「……お前の母親は、アンティークドールの職人か?」

瞬きもせずにアンティークドールを見つめていた拓海先輩が唐突に声を発した。

私から見れば、ほんの数分。拓海先輩は目を開けたまま眠ってしまったみたいに、動かなくなったのだ。

今の間に、拓海先輩は何を見ていたんだろう。

「僕、ママの仕事、知らない。いつも忙しくて家にいなかったから……。お父さんに聞いても、離婚したからママのことは忘れろって」

……離婚してたんだ。

だからお母さんは、家を出て行ったのだ。
その事実に胸がずっしりと重くなり、自分に出来ることはなんだろうと考える。

「……なら、孝之、その名前に覚えは?」

「ううん、わからない……」

考えている間に、拓海先輩が淡々と謎の質問をしていく。

「……そのアンティークドールは、母親の傑作らしいな」

──お母さんの傑作のアンティークドール?

という事はこのアンティークドールは、お母さんが作ったのかもしれないと思った。

「うん、ママがそう言ってた。でも、意味が分からなかった」

2人の間でだけ、話が成立している。
私も役に立ちたいのに、なんだか取り残されてる気分だ。

「工房に行ったことはあるか?」

「工房?」

「……わかった、もういい」

拓海先輩は眉間にシワを寄せて、顎に手を当てると瞼を閉じる。難しそうな顔で何かを考えてるみたいだった。