この世にアンティークとして存在した年月が長いほど、数えたらきりがない枚数になるこれを、まるで物語のようだと、俺は思う。

記憶と感情は共にあり、一冊の本のように一枚一枚綴られていく。

壊れてもリペアされるし、所有者もなんらかの形で受け継がれる。

アンティークは、永遠の物語を綴る本。
俺はその膨大なエピソードの中から、色づいた物だけに目を凝らす。

依頼人に求めるのは”知りたい”という事柄一つだけでいい。それが道しるべになる。

そして、その膨大なエピソードの中から、ぼんやりと淡く光るページを見つけた。

──あれだ。

すぐに悟った俺は手を伸ばし、今その記憶と感情に触れる。その瞬間にパァァァァッと闇がかき消されるほどの光に包まれて、俺は反射的にグッと目を閉じた。

そして、次に目を開いた時。
俺は見た事のない家の玄関に立っていた。

『これ、ママの一番の傑作なの』

大きなキャリーバックを側に置いて、悲しげに依頼人の子供を振り返る女が1人いる。

夕方なのか、窓から差し込む茜色の光がなお、寂しさを誘った。

──あれがあの子供の母親か。

これから家を出ていく気満々といった感じの母親の「傑作」という言葉に引っかかる。

もしかして、何かの職人なのだろうか。