「ごめんね、このお兄ちゃんの顔、怖いよね?あっ、でもね、これがお兄ちゃんの標準だから!」
「……待て、どういう意味だ」
傍にやってきた私を、拓海先輩が説明しろと言わんばかりに睨んでくる。
「拓海先輩、相手は子供ですよ!?初対面でアンティークドールか、鑑定かって……アホですか!」
もちろん拓海先輩の言葉は、たいして低い声の出ない私の喉をフル活用して、ものまねでお届けしてあげた。
「アホ……だと?」
あまり表情を動かさない拓海先輩が、軽く目を見開いてそう言うもんだから、その珍しさに一瞬ド肝を抜かれる。
「ニコッて笑ってください!」
「……無理だ」
「だって、今にも男の子逃げそうじゃないですか!」
「…………」
拓海先輩が確認するように男の子に視線を向けると、目が合った瞬間に「ひっ」と本日2回目の悲鳴を上げられた。
言わんこっちゃないと拓海先輩を軽く睨めば、静かに視線を逸らされる。
私達を見ていた空くんは、ため息をついて呆れたように「とりあえず、席に座れば?」とそう言った。
「ごほんっ、席に案内するね」
「う、うん……」
助け舟は失敗に終わり、結局、お客様を待たせてしまった私は、気を取り直して男の子を店内唯一のテーブル席にご案内する。
さっき深海さんが教えてくれた手順通りに、メニューを男の子に手渡した。