「命はない……」

「来春さん?顔色悪いですが、大丈夫ですか?」

「はい、ちょっと未来に不安を覚えただけです……」

「はい?」

「いえ、なんでもありません!」

私が笑みを引き攣らせていると、クラウンが「ワンッ!」と吠えて足元に擦り寄ってくる。

つぶらな瞳で遊んでとばかりに尻尾を振り、見上げてきた。それに何とも言えない胸のトキメキを感じて、ふにゃんふにゃんに顔が緩む。

「クラウン、おはよう~っ!」

「ワンッ!」

こんなに尻っぽ振って歓迎してくれるのはクラウンと深海さんだけだ。残り二名は喫茶店で働いているとは思えないほど愛想が悪い、それどころか皆無だ。

「でもクラウンっていい名前だねぇー、王冠だっけ?」

「……クラウン銀貨だ」

「え……」

クラウンの前でしゃがみ込み、ワシャワシャと頭を撫でていると拓海先輩がそう呟いた。

──まさか、拓海先輩から会話に入ってくれるとは……!

もしかして、このまま普通に会話出来るかもと調子に乗った私は拓海先輩に話しかけてみる事にした。

「クラウン銀貨って何ですか?」

「1847年から1853年、8000枚しか発行されなかったイギリスのゴシッククラウン銀貨の事だ」

「じゃあ、お金なの、君の名前は!」

「コインも価値あるアンティークと同じだ、金とか言うな」

拓海先輩に怒られてしまった。

──コインもアンティーク……か。

さすが鑑定士。当たり前なんだろうけどアンティークの事、詳しいんだ。拓海先輩は同じ高校生なのに物知りで、素直にすごいなと感心する。